109.
第六話 円陣
長い階段を降りた先には麻雀をやるスペースとは思えない程広い対局会場があり、そこの入り口の鉄扉に今日の卓組表が張り出されている。
(どれどれ…… 私の相手は誰かな?)
本日のリーグ戦第4節は全員バラバラの卓に振り分けられた。ちなみにこの卓組みのシステムは不正を防ぐために毎回成績を打ち込んだあとで入力を押すとコンピュータが勝手に次回の卓組みをランダムで作り出すようになっている。ランダムとは言えコンピュータの設定であまり偏ったことにはならないようにされているのか前回と似た組み合わせには滅多にならない。成績が近い人4人とかにもなりにくいようにプログラムされているようだ。
「今日はみんな別卓ね。メグミさんとも当たらないし」カオリは正直ホッとした。第4節はここでしっかり打って最終節に安心出来るリードを持ち込みたい。そんな時に潰し合いはしたくなかった。したくないからと言って手を抜いた試合をするということもカオリたちは絶対しないと麻雀部のルールとして決めていたので当たらないのが一番いい。
「頑張ろう茨城女子! みんなで昇級するのよー!!」
「出来たらいいですねー!」
「このままなら達成出来るし、今日次第ね」
「よし、絶対負けないぞ!」「オッケー!」
メグミはカオリ達と4人で円形に並ぶと手を真ん中に差し出した。それにマナミとミサトも続く。バレー部みたいな感じで。カオリは運動部に所属した経験がないので一瞬これは何をしたらいいのか分からなかったが(あ、テレビでやってるバレーでたまに見る円陣ってやつだ)と察して手を一番上に重ねた。
するとメグミが力強い声をあげる。
「勝つぞ!!」
「ハイ!!」《ハイ!》「ヨシ!!」「オーー!!」
セリフは見事なほどに揃わなかったが、全員目一杯気合いの
149.第十一話 麻雀教室プレオープン ユウたちは麻雀教室をプレオープン的に始めることにした。 まだ、アンやショウコは高校を卒業していないしユウも大学生なので頻繁に時間を割くことは出来ないが、準備だけは整っていたので都合のいい日に試験的にやってみたのだ。 しかし、最初は全然だめ、来客ゼロ。(まあ、そんなもんだ)と、諦めかけた。その時……!「あのー。麻雀教室っていまやってますか?」「はい! 営業中です、いらっしゃいませ!」 そこに来たのはサラリーマン風の男性だった。「うちの上司が麻雀好きで…… 接待麻雀を出来るくらいの腕になりたいのですが、お願いできますか?」「なるほど、接待麻雀ということは読んで差し込む技術を学びたいということですね。お任せください。私がお客様を差し込みのプロにして差し上げます」 記念すべき1人目のお客様は27歳サラリーマンの岬芳一(みさきよしかず)「私が…… って。キミが講師なのかい?」「ええ、不服でしたか?」「いや、そう言う訳じゃないけど…… ずいぶん若い人なんだなぁって」「ふふ、これでも私、第1回UUCコーヒー杯って言うちょっと大きめの麻雀大会で優勝してるんですよ。言わばタイトルホルダーです」「タイトルホルダー!? す、すごいな…… それは失礼しました。よろしくお願いします」「はい、こちらこそ。よろしくです」 麻雀教室は実際に来店するお客様以外にもパソコンに依頼人から牌譜データを送ってもらって添削をするという仕事も稼働し始めていて、少しずつ活動を開始していた。
148.第十話 完璧な配置 女流リーグ最終節を終えたその日の夜。マナミが機嫌良く入浴している間、3人(人?)は話していた。《いやー、おめでとうございます。カオリはやっぱり強いですねー。それにしてもマナミさんの逆転優勝は驚きました! 同テンなのに直撃取るなんて普通ありえないですから。劇的勝利でしたね!》〈強くなりましたよねマナミも。正直、私はもうマナミに必要ないのかも知れません。実はもう何日も前から私はマナミに指示を出していませんから〉(ラーシャもマナミに話しかけてみたらいいのに)〈彼女はそれを望んでいませんので……〉 《案外、仲良くなれるかもしれませんよ》(そうそう、私たちみたいにね)バン 風呂場の扉を開閉した音が聞こえる。マナミが風呂をあがったようだ。(あ、マナミがあがったから私もお風呂の準備するね。womanたちはまだお話ししてたら?)〈いや、私の声はマナミに届いてしまうので〉(あれ? そう言えば私はふたりのどちらの声も聞こえるけど)《カオリはセンサーが高性能な神探知機みたいなものです。普通、こちらが話しかけても届かないのが人間と神の関係ですから。まして、自分に憑いている神以外と会話する人間なんてカオリだけですよ》(へえ…… 私のおばあちゃんは巫女だったし覚醒遺伝的な神力があるのかな?)《おばあちゃんが巫女……》(?) するとマナミが部屋に帰ってきた。「カオリー。お風呂あいたよー。入るでしょー?」「うん。入る」 暑かった季節は終わりを告げ、今日はもう肌寒くて湯船がとって
147.第九話 クライマックスの奇跡 女流リーグ第3節はメグミはコケていたが財前姉妹やミサトやヤヨイはガンガンポイントを叩いていた。 女流リーグは人数が少ないため次回第4節が最終節となる全16半荘制だ。メグミは今回コケたのは痛かった。とは言え、第1節第2節で貯めたポイントがあるので昇級はしそうではある。しそうではあるが、首位昇級が狙えたのでそこは残念だった。いや、まだ諦めるには早すぎるが。 ちなみにAへの昇級は5人だけ。丁度この5人が昇級で決まりのような、そんな予感がしていた。 そして、第3節も終了して運命の最終節。 最終節はマナミとヤヨイとメグミが同卓で首位昇級を賭けた戦いになっていた。メグミだってここで大きく叩けば首位昇級がまだある。少しはそう考えたが。前に出れば出ただけリスクもある。ここで無理しては昇級ラインから落ちる可能性もあるのでメグミは戦闘を避けることを選択。Bリーグ優勝よりもメグミが求めているのはAリーグ参戦という権利であった。そこに師である杜若茜(かきつばたあかね)が待っている。だから行かなければならない。そう思っているのだ。 その考えはカオリもそうで、カオリはマナミたちと別卓だが(5位までに入ればいい)という考えで最終節は守り主体の麻雀をやり抜いた。ミサトに関してはいつも通りだ。守り主体が通常運転であるので今日もそうした。 カオリとミサトはそつなく最終節を終わらせてマナミたちの卓を見に行く。すると丁度オーラスになった所だった。 ここでカオリたちはクライマックスの奇跡を目撃することになる。 オーラスの親はメグミで、メグミはノーテンで伏せれば昇級なので連荘はない最終局。 接戦なのはヤヨイとマナミの2名。この2人の勝った方がBリーグ優勝になる。そんな場面だった。オーラスの並びは
146.第八話 ドライブスルー 喫茶店『グリーン』は店舗の拡張を行った。厨房の壁側に出窓を設置してそこでドライブスルー出来るようにしたのだ。 それはドライブスルーだけが目的ではなくて、麻雀教室に来てる人にも注文の受け取りが簡単になるようにした一石二鳥のアイディアだった。 この提案はユウの思い付きによるものだ。一度、アイスコーヒーを麻雀教室まで持って行こうと思って持ち歩いていた時に渡り廊下の段差で躓いてこぼした事があり、足は痛いわ、グラスは割るわ、コーヒーはぶちまけるわ、恥ずかしいわで散々だったため持ち込むのではなくてすぐ近くに受け取り場所があればいいのにな、と思ったのがきっかけだった。 それを言うとすぐに実行に移すグリーンのオーナーたちはさすがの行動力と資金力だ。「うん! いい出窓が出来上がった! これでここにインターホンを付けてすぐ隣に扉を設置したら完成ね」「扉があることによって何かと便利にもなるし、これはいいアイディアでしたね」「簡易的なレジも設置しましょう。小銭のやり取りで時間を取られないように」「そうね、これから楽しみね。良かったわ、広い駐車場で。おかげで麻雀教室は設置されるし、ドライブスルーも出来るようになるしで夢が広がるじゃない」 その数ヶ月後。麻雀教室とドライブスルーは一気に完成する。それにより、駐車場スペースに麻雀教室がある事が自然と知れ渡り、ドライブスルーは麻雀教室の宣伝にもなったのだった。 ここまでは予想してなかったので嬉しい誤算。まだ、アンが高校を卒業していないので麻雀教室の本格的な営業開始は春からとしようと思っていたが「裏の駐車場にあるあの麻雀の教室? いつからオープンするの? 始まったら教えてほしい」という客がチラホラ出ていて、ユウとアンの麻雀教室は明らかに2人だけでやるには人気がありすぎると思われた。「どうするこれ。多分、スタッフ足らないよ」とユウがアンに嬉しい不満を言っていた。 それを見た倉住ショウコが「なによ、私もいるじゃない。3人なら大丈夫
145.第七話 次世代のスーパーヒーロー「井川さんー! すごかったです!」「『ミサト』でいいって」「あっ、そうだった。へへ……。つい、尊敬しちゃって」「ふふふ、ありがと。凄いってあれの事でしょ? 打九ダマ」「そうです。何であんな芸当が出来るんですか?」「まあ、読みよね。ああいうのは本来、同じ麻雀部の『竹田杏奈(たけだあんな)』って子の方が得意でね。今度ユキにも紹介してあげるね。まだ高3なんだけど、鋭い読みで魔術みたいな麻雀をするの」「へえーー! それは会ってみたいです!」「ね、敬語やめない?」「あ、すいませ… ごめんね」「いや、謝るこたあないケドね」 ミサトがタイトルホルダーの実力を見せつけている所、一方で財前姉妹はと言うと。こちらも難なく勝ちを重ねていた。 奥の方に記者のような人達がいるのが見える。(きっと美人姉妹なカオリたちを取材に来たに違いない) そうは思っていたものの、本当にその通りであったので、ミサトは少しだけ悔しくもあった。(私なんて新人王なのにな)「ミサトなんて新人王なのに、こっちも少しくらい取材したら? って思うよねー」 ユキがミサトの心を見透かしたようにそう言った。「そんなことないよ、カオリたちが話題性があるのは間違いないし」(まるっきり心を読まれた?! 顔に出てたのかしら? 恥ずかしいな)「私は断然ミサト派。スタイルもミサトの方がいいし。公言するけど、私はミサトの1番のファンですからね」「わかったから…… 照れるからそう言うの言わなくていいって…… 嬉しいけどさ」「ちょっと! 第1節第2節と絶好調な私のことも取材していきなさいよ!」とメグミが記者
144.第六話 狙撃 今日は女流リーグ第2節。 ミサトのことを新人王だと知った飯田ユキが今日は観戦に来ていた。(えーと、井川さんはどこかなー。あ、いたいた) ミサトの卓を見てみると、もう南2局だった。ミサトは25000点持ちの二着目。(あれ、開始15分でもう後半戦になってるんだ。早いな。ていうか井川さん25000点持ちってもしかして一度も点数動いてないの?) そうなのだ、この卓はロンの応酬で進んでおり連荘もなく、ミサトは持ち点を動かさずに南2局まで進めていた。しかし、そのように仕向けたのはミサトであり、この展開はミサトが作り上げたものだったのである。 この日のミサトは手が悪かった。なので威嚇するように仕掛けをしておいてその実テンパイしておらず、ミサトばかりを気にして警戒した結果、他の人に放銃。それの繰り返しで南2局まで失点ゼロに抑えたのだ。そのような芸当が出来るのは新人王というタイトルがあればこそ。ミサトは自分のタイトルホルダーという立場を目一杯利用した戦略を選んでいた。さすがの対応力である。 そして今、ついにミサトに勝負手が入る。ミサト手牌二三三四伍六七八九⑥⑥45 6ツモ ドラ⑥ 一萬は三着目が3巡目と5巡目に捨てていて2枚切れ。 ユキは思った(これは絶対リーチ! 最高の仕上がりです! 一気通貫目指して全力で曲げましょう!)と。 しかし、ミサトはトップ目が前巡に少考して捨てた二萬に目をやっていた。トップ目はそれ以前に5索も捨てている。ミサトの思考(5索を先に捨てていながら一萬二萬とあり、さらにそれを結局中盤で払うなんてこと、あまりないな。一萬はあと2枚しかない